―稲城の梨のはなし―
《稲城といえば梨》
ご存じですか?稲城は東京都内最大の梨生産地なんですよ。
梨は農家さんが手間をかけ、研究を重ね、あらゆる工夫を施されて毎年8〜10月に最盛期になります。中でも大玉で香りもよくてみずみずしい『稲城』という品種はとても人気で、おいしさを知っている人は県をまたいでやって来ます。
市内各所にある農家さんの直売所もこの時期はひっきりなしに梨を買い求める人たちが訪れます。品種もいろいろあり、「稲城」のほかにも「多摩」「幸水」「豊水」「あきづき」「新高」「かおり」「二十世紀」などなど、(挿絵1)それぞれに『食感』『瑞々しさ』『甘さ』『酸味』『香り』のバランスがちがって特長を出しているので好みの品種を見つけていくのも楽しみです。
稲城で育った子供たちは小さいころから遠足で梨狩りに行ったり、小学校では近くの梨農家さんに花粉付けなどのお手伝いを体験させてもらったり、給食でも梨がよく出たりと身近な存在です。この身近にある稲城の美味しい梨を使っていつでも美味しく食べられるお菓子に出来ないかとずっと思っていました。
《きっかけ》
ホイップが稲城の特産品を使うようになったのは平成18年、ホイップがオープンして2年目のある日のことでした。
稲城市役所から産業経済課の方々がいらして「稲城の特産品である梨や高尾ぶどうをもっと広めたい!」というお話をされました。
この時の産業経済課の課長さんは地元育ちの熱い方で、同行の女性は稲城思いで愛情の深い方で、お二人は稲城の特産物を使ったお菓子作りを提案していかれました。
この提案はホイップでも地元の特産品を使ったお菓子作りをしたいと考えていたところでしたので真剣に取り組むにはいいきっかけでした。
稲城の特産品を使ったお菓子づくりはこの時から始まり、まずは生菓子の梨ゼリーを作りました。毎年品数を少しずつ増やしながら進めてみたのですが、致命的なある事に気付きました。
《ハードル》
稲城の梨やぶどうを広めたいのに、収穫出来るのは一年のうち2ヶ月ほど、しかもこの時期は梨農家さんでも採れたての梨を販売しているので、生の梨で生菓子を作るだけでは収穫時期と重なってしまい、長い期間で梨を使ってアピールすることはできません。そこで一年を通してお店に出せる焼き菓子の作成をすることにしました。
焼菓子を作るにあたり、生の梨やぶどうは日持ちがしないので一次加工品が欲しい所でしたが、ほとんどが生食用で加工品は農家さんが独自に作るくらいで、近隣に加工所やジュース工場などはありません。年間通して安定して製造していくためにも
『一次加工品から自分達の手で作るしかないのか…』そこで手始めになんとか探し出した長野県の飲料加工業者に稲城で採れた梨を自分達で持ち込み「稲城で生まれた梨ジュース」をつくりました。干し梨が作られるようになるのはもう少し後のことになります。
《ひらめき~『日本一おいしい梨の焼菓子』を作るぞー‼》
次の年、梨やジュースを使い、ジャムやコンポートにしたものを作って、いろいろな焼菓子の試作をしてみましたが、和梨を焼菓子にするには大きなジレンマがありました。梨らしさを強くだすため水分を残すと生地の部分がべちゃっとなり、水分を飛ばしたジャムやソースだと梨の存在感が無くなってしまうんです・・・
悩んでいてもしょうがないので日本中の梨の産地に出掛けて行き、その土地のケーキ屋さんで梨の焼菓子を買いあさり、参考になりそうなものを探してみましたが私が納得できる焼菓子は一つとしてありませんでした。
・・・想いました
「梨を使っているというだけでは駄目だ、梨らしさが消え梨が材料として入っているだけでは何の魅力も感じない。本当においしいと思えて和梨が活きている『日本一おいしい梨の焼菓子』そういう焼菓子が作りたい!!」
そんな思いがあったからか、駅で買った弁当を食べながら次の目的地に向かう時、弁当のおかずになっている切干大根の煮物に目がとまり、これだっっ!と思いました。(挿絵5)大根は煮ると柔らかくなるけど、干すと切干大根や沢庵のように触感を出す事が出来る。コックだったころ調理法ひとつで大根がこんなにも変わるのかって驚いたことを思い出しました。
・・・これを梨に応用出来ないか?
すぐに菓子屋の窯で梨を干してみて「干し梨」を作ってみました。食べてみると・・・想像とは大きくかけ離れていました・・・ただのドライフルーツだ・・・甘く味も濃くなっているけど梨だと言われなければすぐに気がつかない・・・そこで切干大根を真似て水に漬けて一晩おくことにしてみます。翌日、かすかな望みをかけて水で戻した干し梨を食べると・・・「これならいけるっ!」梨のシャキ感が戻っていました。
《そして完成へ》
干されたことで味や香りも強くなっていましたが、更に強くするため「稲城で生まれた梨ジュース」で戻すことにしました。今まで試行錯誤した経験から梨が一番合いそうなのは卵・バター・梨のバランスが整ったときに美味しい焼菓子になると確信していましたので、これなら卵やバターの香りに負けないどころかとてもいいものが出来そうです。そこで小さいお子様からご年配の方までなじみのあるマドレーヌのようなお菓子のレシピに『戻した干し梨』を入れて焼いてみたところ、試作してきた中でも群を抜いて梨が活きていて、その梨も和梨として感じとれる美味しい焼菓子になりました。これなら納得してお店にだせる!長い道のりだったけど、ついに・・・ついに稲城の梨が入った焼菓子は誕生したのです!♪ジャジャーーーン!
その名も『稲城で生まれた梨けーき』!!テッテレーーー♬
さっそくお店にだしてみるとお客様からの評判も上々で地域ブランドの「稲城の太鼓判」にも認証されたり、テレビでも紹介されたりして少しずつ認知度を上げております。
《そんなある日》
お話をいただいてから「梨けーき」が出来るまで5年もかかってしまい、当時の市役所の担当だった人達も人事異動で変わっていました。ある日別の事で市役所に出向き話をしていると、以前あの課長さんと同行してこられた女性にばったり出会い、あることを告げられました。
「ご存じでしたか? 元課長が半年前に胃ガンで亡くなられたんです。」・・・なにが起こったのか?理解するのに時間がかかりました。・・・稲城の梨の知名度を上げたくて足繁くウチに来てはたくさんの梨やぶどうの話をして何件も農家さんを紹介してくれました。うちが人手不足で困っていると相談に乗ってくれました。自分の実家も農家で稲城の梨やぶどうの事を皆に知ってほしいと言っていました・・・
この梨けーきはあの人に食べてもらうことはもうできないけど、きっと一番喜んでくれるに違いない。そして広く知れ渡り『稲城の梨』がもっともっと認知されていくことを願っていると考え、このお話を書かせていただきました。
《あとがき》
こんな思いや経緯で手掛け始めた特産品を使ったお菓子作りは種類も増えてきています。同じく干し梨を使った『梨スコーン』や稲城のもう一つの特産品のぶどうを干しぶどうにして作った『高尾ぶどうけーき』や『高尾ぶどうショコラ』など、一年を通して稲城の梨やぶどうを楽しめるようにしております。
稲城の梨やぶどうがいつまでも繁栄しますように・・・
「今年も美味しい梨が食べれるの楽しみだな~」
稲城で大切に育てられた美味しい『梨』を一年中食べられるようにホイップでは干し梨にしていろんなお菓子にしているよ!
誤表記訂正のおしらせ
いつもご利用いただきありがとうございます。
この度新しく作成した梨けーき用の包装袋裏面の説明文に誤りがありました。
7行目
誤)梨ジュース用
正)梨けーき用
となります。内容を上記のとおり訂正してご認識いただきますようお願い申し上げます。